ディアスポラ

ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)

ディアスポラ (ハヤカワ文庫 SF)

濃かった。脳の隅々までパルスが飛び交った感じ。

SF である。SF の常として、舞台は何千年もの未来だったり、科学技術の発達した世界だったり、別の星だったり。つまり、序盤でその世界観を把握するのが大変な場合が多い。この本も例にたがわず、序盤がつらい。
人類のほとんどが肉体を棄て、ソフトウェアとして生きている世界。一方でそれに反する人間たちは地上で生きている。そして一方宇宙探査のために外へ飛び出していく。
主人公はソフトウェアの中から生まれた「孤児」。多様性、不確定性を持たせるために多層構造のプログラムを大量に重ね合わせ、時間経過とともにそこから秩序が生まれ、認識が生まれる。

こうして生まれた「孤児」ヤチマはネット内で知り合った友人らと様々な事件に出くわす。

おもしろかったのが、ネット内の人間たちは寿命もないし、世界のありとあらゆる情報を瞬時に手に入れることができる。でも、それでは知ったことにはならない。理解したことにはならない、というくだり。

学習というのは、不思議な作業だ。やろうと思えば、自分の界面ソフトに命じて、この生の情報すべてを自分の精神に結線させるのは一瞬だ。- 略 - が、そのやりかたでは、事実がいま以上に近しいものになることも、ヤチマの理解を向上させることも、なさそうだった。数学的概念を把握する唯一の手段は、それをいくつもの異なるコンテクストの中で見、何ダースもの具体例について考え抜き、直観的な結論を強化するメタファーを最低ふたつか三つ見つけることだ。

情報を手に入れることと、理解することの距離はやはりあるのね。努力しないといけないのね。。

このようにやたら緻密な文体ですが、それでスケールはとてもでかいので読み進めるのは大変ですが、ここではない世界に身をはせて楽しむ、これこそがSFの醍醐味ではないでしょうか。



ついでに本棚のぞきながら見つけた SFの本を何冊か紹介。

ハイペリオン〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

ハイペリオン〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)

ダン・シモンズによるハイペリオンエンディミオンシリーズ。スペースオペラとくくるのが申し訳ないくらい壮大な作品。
あらすじも説明できないくらい込み入っているので書けない。。
未来の世界と19世紀に実在した孤高の詩人ジョン・キーツや(彼の書いた詩のタイトルがハイペリオンエンディミオン)などが複合的に絡み合い、奇跡のような仕上がりになっております。ぜひ読んでいただきたいです。
※これ、長門有希の100冊に入ってるよね。
ハイペリオン〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)ハイペリオンの没落〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)ハイペリオンの没落〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)エンディミオン〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)エンディミオン〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)エンディミオンの覚醒〈上〉 (ハヤカワ文庫SF)エンディミオンの覚醒〈下〉 (ハヤカワ文庫SF)


戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)

戦闘妖精・雪風(改) (ハヤカワ文庫JA)

最初に発表されたのが20年前らしいが(これは改訂版)まったく古さを感じさせない。触ると切れそうな研ぎ澄まされた文体。異星人の襲撃を受けた地球。迎え撃つ地球軍。敵の情報を得ることが最優先のため、偵察機は最高性能の機体、それに適性の高い兵士が乗り込む。それが主人公。至上命令は何があっても帰還すること。たとえ味方を見殺しにしても。
敵の意思がまったくわからない中で戦闘は延々と続く。機械が改良されるにつれて、武器、戦闘機、基地の運用などが機械任せになっていく。機械の判断が人間を上回ることもある。戦闘機の旋回制度が人間の肉体の限界を超えてしまう。それでも人は戦っている。何のために?もしかしたら、異星人は、戦闘機に乗った人間が襲ってきたとき、戦闘機自体を敵と認識しているのではないか。人間の存在など気付いていないのではないか。人間の存在に気づかず襲ってくる敵と自動操縦で回避する戦闘機。それでも人は死んでいく。
読みながら絶えず、人間って、機械って、と考えずにはいられません。


星を継ぐもの (創元SF文庫)

星を継ぐもの (創元SF文庫)

ちょっとだけ未来の地球。月面で真っ赤な宇宙服をきた死体が発見される。その死体は何と5万年前のものだった。科学者たちがその謎を解く。SFというよりミステリーに近い構成です。証拠固めの方法、推理などまさに探偵小説です。こう書くと地味かもしれませんがそんなことありません。進化論から宇宙人の存在まで含めた議論の応酬。どんでん返し続きの論理展開。読み始めたら止まりません。まだ読んでいない方はぜひ手に取ってみてください。
Zガンダム 劇場版のサブタイトルとしても使われています。